インテリアショップに展示されていたバルセロナチェアには、実際に座ったことがあります。座面は大きく、ゆったりしています。厚みのあるクッションにスチールバーのフレームの適度なしなりが加わって、座り心地は快適です。スチールバーがX字型に交差する部分は、溶接でつないでいます。力はここに集中するので、本来構造的には少し無理があるのですが、それを逆手に取って緊張感のあるデザインとして成立させています。

この椅子は、ミース・ファン・デル・ローエがバルセロナ万博(1929年)のパビリオンを設計した際に、同時にデザインしたものです。バルセロナ・パビリオンといえば、垂直と水平の線と面だけで構成された、抽象空間の代表のように言われています。そんな抽象空間の中に、有機的とまではいえないにしても、微妙なカーブを持った曲線脚の椅子が置かれたのですが、それほど違和感はありません。椅子は人間が座ってはじめて機能するものですし、建築よりはむしろ人間に近い存在です。ですから建築の中に置かれた椅子というのは、人間を間接的に表しているとも言えるのではないでしょうか。人の気配のない抽象空間であっても、そこに何か空間と人間との交接が込められているような気がします。
それともう一点、ミースは形態を極度に抽象したとしても、モノの素材感は消していません。パビリオンには数種類の大理石が使い分けられていますし、バルセロナチェアも、スチールと皮革という素材の持ち味を生かしています。形態を抽象化すればするほど、逆に素材感が浮かび上がってくるという構図のようでもあります。
